第3章 「そして音は還る――Oasis再結成と、2025年10月25日東京ドームLIVEを遠くから見つめて」 (by 滝沢 透)

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そして音は還る――Oasis再結成と、2025年10月25日東京ドームLIVEを遠くから見つめて

by 滝沢 透

導入

僕はその夜、東京ドームにはいなかった。チケットは瞬く間に完売し、SNSのタイムラインは歓喜と涙で埋め尽くされた。だからこそ、画面の向こうで流れる歓声を眺めながら、ふと、2000年代初頭の自分を思い出した。

狭い部屋。安いステレオ。CDトレイの中には『(What’s the Story) Morning Glory?』。あの音が、確かに僕を世界とつないでくれた。とはいえ、行けなかった悔しさよりも、この世界にOasisが“まだ存在している”という事実のほうが、静かに胸を満たしていた。

第一節:16年ぶりの光景を、遠くから見つめて

あの日、僕は東京ドームにいなかった

2009年の解散から、実に16年。ノエルとリアムが同じステージに立つというニュースを初めて目にしたとき、僕は半信半疑で見出しを何度も読み返した。やがて迎えた2025年10月25日、東京ドーム――Oasis “Live ’25” Tour 初日。まず何より、各メディアのレポートは“奇跡”ではなく“帰還”という言葉でこの夜を記していた。

それでも、音の中心はぶれない

派手な演出や長いMCはほとんどない。むしろ、音だけが淡々と進む。しかし、それがOasisらしさだった。さらに言えば、僕らの記憶の中のOasisもまた、いつだって音で語ってきたのだ。

第二節:記憶の中のステージ

静かな衝撃――“Talk Tonight”が鳴った瞬間

序盤の“Hello”から“Some Might Say”までは、90年代の勢いをそのまま封じ込めたような流れだという記述が目立つ。一方で、リアムの声は少し掠れていたという。ただし、それは衰えではなく、16年という時間が刻んだ成熟の響きだった。

やがて中盤、ノエルが“Talk Tonight”を歌う。兄が弟と離れて旅をしていた時期に生まれた曲だ。I wanna talk tonight / Until the morning light――だからこそ、その一節が東京の夜にもう一度置かれた事実は、静かな衝撃だった。

「半分は世界の反対側」だった兄弟が、同じ場所に立つ

続く“Half the World Away”。もちろん、歌詞の通り、かつて二人は“世界の反対側”にいた。にもかかわらず、今は同じステージの左右に立っている。結果として、その事実だけで胸がいっぱいになる。

第三節:時間を抱きしめるセットリスト

<Oasis Live ’25> 2025.10.25 TOKYO DOME セットリスト

SE:Fuckin’ in the Bushes(4th『Standing on the Shoulder of Giants』)

  1. Hello(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)
  2. Acquiesce(“Some Might Say” B面, 1995)
  3. Morning Glory(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)
  4. Some Might Say(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)
  5. Bring It On Down(1st『Definitely Maybe』)
  6. Cigarettes & Alcohol(1st『Definitely Maybe』)
  7. Fade Away(“Cigarettes & Alcohol” B面, 1994)
  8. Supersonic(1st『Definitely Maybe』)
  9. Roll With It(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)
  10. Talk Tonight(“Some Might Say” B面, 1995)
  11. Half The World Away(“Whatever” B面, 1994)
  12. Little by Little(5th『Heathen Chemistry』)
  13. D’you Know What I Mean?(3rd『Be Here Now』)
  14. Stand By Me(3rd『Be Here Now』)
  15. Cast No Shadow(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)
  16. Slide Away(1st『Definitely Maybe』)
  17. Whatever(Non-album Single, 1994)
  18. Live Forever(1st『Definitely Maybe』)
  19. Rock ’n’ Roll Star(1st『Definitely Maybe』)

Encore

  1. The Masterplan(“Wonderwall” B面, 1995)
  2. Don’t Look Back in Anger(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)
  3. Wonderwall(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)
  4. Champagne Supernova(2nd『(What’s the Story) Morning Glory?』)

観客が歌い、ノエルが聴いていた

後半は全時代を横断する構成だ。“D’you Know What I Mean?”、“Stand By Me”、“Slide Away”、“Live Forever”。したがって、一曲ごとに、あの頃のOasisが蘇る。そして、アンコール冒頭の“The Masterplan”。ノエルのギターが静かに導き、会場は呼吸を揃える。

さらに“Don’t Look Back in Anger”では、観客の合唱が旋律を飲み込み、音楽の和解が成立する。結局のところ、最後に残ったのは怒りではなく、祈りだった。

第四節:音が戻ってきた世界で

音は再び、祈りに変わった

僕は自室のスピーカーから流れる断片的な音を聴き、グラスを傾けた。ノエルのストラトキャスターの艶、リアムの少し荒れたヴィブラート。そのわずかな揺らぎに、Oasisという“人間”を聴いた。

16年前、彼らの音が止まったとき、僕は「終わり」だと思った。だからこそ、今はわかる。音楽に終わりはない。ただ、再び届くタイミングがあるだけだ。やがて、再結成ツアーを追うドキュメンタリー制作の噂も流れた。タイトルは未定のまま、ノエルの言葉だけが引用されていた――「俺たちは戻ったんじゃない。ずっとここにいたんだ。」

終章:届かない距離に、音がある

遠くにいても、同じ一音を聴いている

その一文を読んだ瞬間、初めて“Supersonic”を聴いた夜の衝撃が戻ってきた。たとえ遠く離れていても、音は届く。今回も同じだ。東京ドームには行けなかったけれど、Oasisの音は確かに僕の中で鳴っていた。だから、音は距離を越える。そしてOasisは、いまもこの世界に存在し続ける。


参考リンク

※本稿は各種レポート・公表されたセットリスト・公式発表をもとに、滝沢 透が「行けなかったファン」の視点で再構成しています。引用表現は各権利者に帰属します。


エピローグ ― 音は、いまもこの世界を鳴らしている

Oasisというバンドの物語を語ることは、結局のところ「人間の不完全さ」を語ることだった。愛し方を知らずに、怒りでしか感情を伝えられない二人の兄弟。それでも音の上では奇跡のように調和してしまう。その矛盾こそ、OasisがOasisである理由だった。

彼らが世界を席巻していた90年代、僕はまだ若く、音楽を“夢”だと思っていた。でも時を経て、音は夢ではなく“記憶”になっていった。ふとした瞬間に耳にするイントロ、街角のスピーカーから流れる一節に、あの頃の自分がふいに顔を出す。それが、Oasisが僕らに残した魔法だ。

今回の再結成ツアーをめぐって、数多の見出しが踊った。けれど僕にとってそれは、もっと静かな出来事だった。――Oasisが、まだこの世界に存在してくれている。 それだけで、十分だった。

Oasisという物語は、兄弟の物語ではなく、僕ら一人ひとりの人生のメタファーだったのだと思う。夢を掴み、失い、怒り、赦し、また歩き出す。その繰り返しの中で音楽は生き続ける。

“Maybe, I don’t really wanna know…”
あの一節が、30年を経た今も心の奥に響く。Oasisは問い続ける。怒りのあとに、何が残るのか。その答えを探す旅は、まだ続いている。

音は消えても、記憶は鳴り止まない。
その証拠に、今もこの文の奥で“Live Forever”のリフが静かに鳴っている。


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